第2回 マネージャーとリーダーを混同していないか? 〜日米の違いから考える、役割と期待の再定義〜

■ はじめに:あなたの会社では「管理職=リーダー」になっていませんか?

「リーダーシップが足りない」「部下をもっと引っ張ってほしい」「管理職には人を育てる力が必要だ」
そういった言葉が、現場のマネージャーに向けられることは多くあります。

しかし、ここで改めて問い直してみたいのです。
私たちは「マネージャー」と「リーダー」を、正しく使い分けているでしょうか?

多くの日本企業では、マネージャーには業績の達成人の成長を促す力の両方が求められます。
その結果、管理職は「何でも屋」としてあらゆる役割を担わされ、「やりきれない」という思いを抱えている人も少なくありません。

この構造を見直すヒントは、日米の違いにあります。


■ マネージャーとリーダーの違いを再確認しよう

まず、そもそもマネージャーとリーダーは何が違うのでしょうか?
以下の表に簡単に整理してみます。

項目 マネージャー リーダー
目的 計画と管理により、業務を効率的に遂行すること ビジョンを示し、人々を巻き込んで変化を導くこと
対象 主に「業務・成果」 主に「人・組織」
権限 組織的なポジション(役職)に基づく 信頼・影響力に基づく
手段 PDCA、調整、管理、評価 問いかけ、共感、行動による示範
スキル 業務設計力、予実管理、人事評価 傾聴力、意思決定、動機づけ、共感力

マネージャーは「組織を動かすための機能的な役割」、
リーダーは「人を動かすための心理的な役割」とも言えるかもしれません。


■ 日本企業では「一体化」して求められがち

ところが、日本企業ではこの二つがよく混同されます。
というよりも、「マネージャー=リーダーであるべきだ」という期待が強すぎるのです。

たとえば、課長に昇進した社員は、突然「部下のロールモデルになれ」「若手の育成にも力を入れろ」と言われます。
一方で、予算達成やプロジェクトの納期管理といった管理業務も並行して求められる
結果、日々の業務に追われて、どちらも中途半端になってしまうというケースも多く見られます。

この“全部乗せ”スタイルが、管理職に対する心理的ハードルを高めている原因の一つです。


■ アメリカでは「役割分担」が明確

一方で、アメリカ企業の多くでは、マネージャーとリーダーの役割がはっきり分けられています。
代表的な特徴を以下に挙げてみます。

✔ 技術リーダーとマネージャーが分かれている

GoogleやAppleなど、シリコンバレーの企業ではよくある形ですが、
エンジニアの「技術的な意思決定を行うリーダー」と「ピープルマネージャー(評価・調整・育成)」が別々の人であることも多くあります。

その理由は明快です。
優れた技術者が、必ずしも人のマネジメントに向いているとは限らないからです。

✔ キャリアパスが分岐できる

もうひとつの特徴は、昇進=管理職という一本道ではなく、
「マネジメント志向」と「プロフェッショナル志向」に分かれたキャリアパスが整備されていることです。

たとえば、マイクロソフトには「Individual Contributor(個人貢献型)」でも、最上位の職位まで昇格できる制度があります。
つまり、「マネジメントが苦手な人でも、別の方法で会社に貢献できる」道がちゃんと用意されているのです。


■ 日本型に必要なのは、“兼ねる前提”の見直し

もちろん、日本の組織文化の中で「マネージャー=両方できて当然」という風潮が根強いのは理解できます。
しかし、変化のスピードが早く、業務の専門性が高度化している今、管理とリーダーシップを一人で抱えることには限界があります。

そこで必要なのは、次のような視点の転換です。

● 「管理業務は任せてもいい」と考える

評価や勤怠、制度対応などの管理的タスクは、HRBPや専門部署、あるいはアシスタントマネージャーに分担できる仕組みをつくる。
マネージャーは「チームの方向づけと信頼形成」に集中できる環境を整える。

● 「リーダーシップは誰にでも発揮できる」と広める

リーダーシップはポジションではなく「行動」です。
自然体で発揮できる小さなリーダーシップ――たとえば「声をかける」「支える」「気づく」といった行動を日常的に認めて広める文化が必要です。


■ 本当の課題は「役割の混在」にある

「マネージャーとリーダー、どっちが大事か?」ではなく、
**「どちらの役割も必要。でも、それを一人に押しつけすぎていないか?」**という問いが本質です。

すべてをこなせるスーパー管理職を育てるよりも、
それぞれの強みを活かしながら、役割を補い合えるチームの方が、今の時代には合っているはずです。


■ 終わりに:次回のテーマは「リーダーシップは自然体でいい」

次回は、いよいよ「リーダーシップ」そのものに焦点を当てます。

「自分にはリーダーシップがない」と思っている方へ。
リーダーとは、大きな声で指示を出す人ではなく、誰かの一歩を支える人かもしれません。

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